値段の話⑤~今思うこと~

| 2019.11.8


下は、2000年を基準年=1.0としたときの各国の1人あたりGDPの推移を示したものです。日本はこの20年間、1人当たりGDPがほぼ変わっていません。GDPはその国で生み出された付加価値の合計であり、当然ながら1人当たりGDP=1人当たりの平均所得とはなりません。(*三面等価の法則(生産、分配(所得)、支出)を考えると、GDP = 家計の収入 + 企業の収入 + 政府の収入であるので、GDP=すべて家計の収入ではないですし、少なくとも家計の収入だけがGDPではない以上、1人当たりGDPより1人当たり平均所得が大きくなることありません。)

1人当たりGDP推移とはいえ、家計・企業・政府の分配の割合に大きな変化がなければ、イメージとして1人当たり所得は1人当たりGDPにそれなりにリンクして動いているはずなので、あくまで「1人当たりGDPの推移=平均所得の推移のイメージ」と捉えてください。

その上で改めてこのグラフを見ると、日本は過去20年弱、ほとんど所得は増えていません。一方で、ベトナムやインドネシア、その他ASEAN各国では著しい伸びを見ることができます。

にもかかわらず、アップデートされていない、つまり実際に海外の現地を訪れておらず、昔のイメージに引きずられている日本のオトナの多くは、いまだに「東南アジアはまだまだ遅れている」「中国経済が伸びているとは言っても、1人当たりの水準でみればまだまだ日本とは雲泥の差があるだろう」と思っているように思います。

しかし、実情はどうでしょう?私は今年も毎月のように海外出張に出ていました。そこでいつも感じるのは、欧米は1年~3年行かなくても大きな変化を肌で感じることはありません。例えば、毎年チョコレートの展示会でフランスには過去5年連続で同じ時期に行っていますが、2~3年前と今年と比較して、「あ、変わったな」と思うことは電動キックスクーターのLIMEが街中にあったり、シェアオフィスのWeWorkを見つけたり、とそれくらいです。

LIMEしかしアジアは違います。例えばほぼ毎月のようにいくインドネシアでさえ、毎回違いを肌で感じます。これが2~3年前と比較するとなると、かなり別世界の様相を呈します。たとえばシェアライド(タクシーの代わり)のGojekやGrabが当たり前になり、ジャカルタの街中には緑のジャケットやヘルメット(GojekやGrabのドライバーはこれを身に付けます)のバイクが無数に走っています。

そして食事は出前。同じGojekやGrabがフードデリバリーもしてくれるので、コーヒー1杯でも飲みたくなったらスマホのアプリ1つでオーダーから決済まですべて完結。これは中国でも同じで、 外卖(ワイマイ)と呼ばれるデリバリーで、ほとんどのものが手に入ります。

もちろん日本もUBERやDiDiが海外からやってきて、アプリでタクシーを呼んだり、フードデリバリーも可能になってはきましたが、あくまで「可能になった」ということでオプションが増えただけなのに対し、東南アジアでは「それがないと生きていけない」レベルにまでなっているんです。

そしてここまで爆発的にこのような変化が起こる背景には、もちろん上記グラフのように、1人当たりのGDP≒所得が増えていて、便利なサービスをどんどん取り入れる層が成長しているからというのもあります。しかし、それ以上にこの変化を助長しているのは、サービスそのものが価格破壊を伴いながらより消費者に便利になっているという点を見過ごすわけにはいきません。

私は日本でもUBERやDidiなど使いますが、メリットとしては、タクシーを電話で呼ばずにアプリでできることと、事前に登録しておけばクレジットカードで決済をしてくれるから、乗車後にその都度支払いに要する1~2分を節約できるということくらい。迎車料金はかかるし、その場でタクシーを見つけて乗るよりも値段的には高くなります。

しかし、インドネシアでは、事前に価格が決まり(日本でも導入されつつありますが)、100%に近い確率でタクシーよりも安いし、迎車料金もコミコミだし、決済も自動でできます。中でも一番大きいのは、タクシーよりも安いことでしょう。

この「安さ」が最も表れるのが出前。出前を頼むと、例えば1,000円のメニューが、日本だと1,000円+デリバリー料金300円=1,300円となったりしますよね。これが、中国や東南アジアでは、デリバリー込みで900円とかになります。そう、もともとの料金よりも安くなるんです。

どういうことかというと、レストラン側にしてみれば、席を提供しなくてもテイクアウトの需要が一気に増えるので、効率が良くなり、メニューの満額である1,000円をお客さんから取らなくても800円でもいいとなります。他方、デリバリーはタクシーのように人を乗せる必要はなく、また人を乗せるという需要以外に出前のいう新たな需要が生まれ、利用者が増えればその分仕事が増えて稼働率が上がるので、300円のデリバリー料金を取らなくても200円でよい、となります。すると、お客さんは出前にかかる費用は800円+200円=1,000円になる。すると、外に食べに行かなくてもアプリで選んで買えば、割高にならずに注文できるにので、すごくHappyになる。このお店、配達人、お客さんの3者がWin-Win-Winになると、利用者が増えるので競争も激しくなり、店は1000円→800円→750円にして、デリバリー料金は300円→200円→150円にする。こうなると、お客さんが払うのは750円+150円で900円に。外で食べたら1,000円のものが、オフィスや自宅にいながら900円で食べられる!

このような価格破壊を伴うビジネスが、既存の業界や政府の規制の反対を受けることなくどんどん成長していく。政府の規制を受けるどころか、インドネシアに至ってはGojekの創業者でありCEOが、教育・文化相としてつい先日、2019年10月に入閣したニュースは記憶に新しいと思います。スマホの普及スピードが先進国より途上国で早く、固定電話がないのにみんな携帯を持ち始めたように、経済学的には「後発優位」と言いますが、まさに新興国経済は技術革新や斬新なアイデアを取り入れて成長スピードを増しています。そして、これがまわりまわって、最初のGDP推移の図のように経済成長を一層加速していくのです。

翻って下は同じ時期の日本の最低賃金の推移を表したもの。国として1人当たりGDPは過去20年変わっていないのに、最低賃金つまり非正規雇用のアルバイトに払う賃金はまるで新興国並みに毎年上がっています。経済全体が良くなっていない、創出する付加価値が増えていないのに、人材不足や、働き方改革、正規=非正規間の格差縮小という大義の元に単純労働者の賃金が増加しています。生産性の向上が伴わない=付加価値が増えない=なのに企業の人件費負担は増える=利益が出ない=投資に回せない=付加価値創出が見込めない。いったいいつまでこのサイクルを日本は繰り返すのか?というか、なぜ今働き方改革なのか?

日本の最低賃金推移年金支給額が減る中で、不足分は自己責任でというロジックを政府はかざすのであれば、定年の延長だけでなく、若い人に好きなだけ働かせてあげられる環境を作るべき。

値段の話から、各国の経済比較や日本のマクロ経済政策の話に飛んでしまいましたが、海外に出て、現地の方々と話すにつけ、大きな危機感と焦りを感じずにはいられません。

Dari Kのビジョンは「努力が報われる社会」「諦めなくてよい社会」を作ること。言うは易し、行うは難し、なので簡単なチャレンジではありませんが、最近はもしかすると日本以外の方がそういう社会になるのも近いのかな、なんて気がする今日この頃でした。

(終わり)