新作 │ 発酵にこだわるチョコレートトリュフ

dari K to the World
ブログ

2016年 World New Order (世界の新しい秩序)へ

明けましておめでとうございます。新年早々インドネシアからこのブログを書いています。

思えば2015年1月、ちょうど1年前私はこのブログでこんなことを書いていました。(できれば是非こちらを読んでから再度この下を読み進めてください http://www.dari-k.com/blog_post/2015%E5%B9%B4%E3%81%AE%E7%A7%81%E3%81%AE%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%9E/  )

2015年の私の個人的なテーマはsystematic chaos(システマティック・カオス)を作り出すこと。つまり、意図的に混沌とした状態をつくりだし、そこから新たな展開をしていくということでした。カオスは混沌・無秩序の意味。通常はそんなカオスは不透明で不確実性が高い、言い換えると予期できないリスクが多いので、避けたいというのが企業でも人でも本音でしょう。

でも、透明で秩序立っていて、不確実性がなく全て予期できる世の中なんてあり得ないし、たとえあっても面白くない。たとえば、綺麗な清流で魚釣りしたいか?まあそういう人が多いかもしれないけど、私だったら、めっちゃ怖いけど、透明度が低くて全然見えなくて、足を踏み入れたらぬかるんでるかもしれないし、そもそも底が計り知れないくらい深いかもしれない、そんなアマゾンみたいなところに潜って誰も知らない世界を開拓したいと思うんです。

普通の人はリスクなんて取らなくていい。全員がリスクとります、アマゾン行きます、なんていったらこの世界どうにかなってしまうから。でもそうはならないんですよね。人も企業もリスクは怖いから。見えない道を歩みたくない。でもその、暗くて怖いリスキーなカオスの中にしか、とんでもない生物を見つけることは出来ないと思うんです。まあいるかどうかも分からないし、いないかもしれない獲物を採りに行く必要なんて普通はないのですからね。

さて、話を戻すと私は2015年、多くのsystematic chaosを自分なりに作ってきました。その最たるものは何といっても洋菓子の本場パリで毎年開催される世界最大のチョコレートの見本市「サロン・デュ・ショコラ」に出展したこと。出展者は世界に名を轟かせるパティシエやショコラティエばかり。TVや雑誌で見たようなスターシェフが勢ぞろいなんです。サッカーでいうワールドカップのような熱気ムンムン。そんな会場で、Dari Kもスターシェフ達に交じってブースを並べました。

何がカオスかというと、そもそもDari K自体、創業から4年しか経っていない世界的にはまだまだ無名のチョコメーカーなのに出展したということ。そして他のメーカーにはそのブランドを率いるスターショコラティエがいるのが普通だけれど、Dari Kにはスターショコラティエはおろか、製菓学校出身の人すらいないこと。そして最大のカオスは、チョコレート業界では「インドネシアのカカオ豆=質が悪くてとてもじゃないけど美味しいチョコ作りには使えない」というレッテルを貼られている現状下で、Dari Kのチョコレートはそのインドネシア産カカオ豆のみを使って作っているということ。

そんな、普通に考えれば「到底できっこない」ようなサロン・デュ・ショコラへの出展をsystematicに、つまり自ら応募して実現させたわけです。チョコレートに詳しくない人はサロン・デュ・ショコラと言っても「???」かもしれませんが、なんというか、雪が降らない国の出身者が冬季オリンピックに出場しちゃった、そんな感じです。「そもそもあなた出場できないでしょ?」というような常識をひっくり返したようなイメージ。

そして案の定、このchaosを意識的に作り出すために、2015年の前半はそれに向けてsystematicに動いてきました。サロン・デュ・ショコラ事務局から出展許可の通知が来たときはオーディションに受かったかのようにうれしかったです。そしてその後、C.C.C.と呼ばれるチョコレート愛好者による評議会の委員長から「Youのチョコ、出品してよ。食べてみたいから」とメールが来て、いろいろなハプニングを乗り越え、ブロンズアワードを受賞できたこと、それも本当に名誉なことでした。

これは単にサロンデュショコラにチャレンジしたとかそういう次元じゃないんです。もうまさにカオスな次元。チョコのことを知ってれば知ってる人ほど「どうなってるんだ!?」と思ったことでしょう。そしてパリの会場で、舌の肥えたフランス人や世界各国のバイヤーがDari Kのチョコを食べて、「お前マジか?このチョコ、インドネシアの豆から作ってるのか?アンビリバボー!!」と言ったのが今でも脳裏にやきついています。

作り上げたカオスから見えてきたもの、それは「インドネシアのカカオ豆も世界で通用する!」その確信。そして、インドネシアの農家が手塩にかけて育てたカカオ豆を使ったチョコが世界のパリの舞台で高評価を得たと生産者に伝えた時「Dari Kと一緒に4年間頑張ってやってきて良かった!」この一言。何が起こるか分からないchaosから生まれたのは、「自分たちでもやれば出来る」という生産者の自信(自尊心)と誇りでした。

サロンデュショコラだけではありません。他にもカオスを意図的に沢山作ってきました。その多くは日本の政府案件に関わることです。外務省JICAの「途上国でのBOPビジネスの実現可能性調査」では、大手商社と組んでインドネシアの貧しい地域でカカオの栽培を指導し、住民の所得向上を図るというプロジェクトをはじめました。経産省の「気候変動に対する適応策の実践」では、これまたインドネシアで降水量が著しく減少している地域でカカオを中心としたアグロフォレストリを導入し、気候変動に対する農家の脆弱性を緩和するというプロジェクトを主導しました。

もう1つ経産省の「社会課題解決型ビジネス事業」では、これまで廃棄されていたカカオの殻を使って、それをバイオマスとして利用しバイオガスを創出したり、現地での6次産業化の推進ということでチョコレート製造を始めました。林野庁の「途上国での持続可能な森林経営に関する調査」では、フィリピンのカカオ産業をどう育成すれば国際競争力を獲得することができるかについてカカオの専門家として関与しました。

社員5名の京都の小さなチョコレート屋が、日本政府の国外案件を受注し成果を出す。通常は大手企業や開発コンサルティング会社が受託するようなものを、創業からわずか4年しか経っていない弱小企業が、日本政府から委託された企業として相手国政府や現地住民を相手にプロジェクトの説明から実行まですべてこなしているのです。

なぜこんなことが起こるのか?それはDari Kはもはや単なるチョコレート屋ではなく、世界の様々な課題に対し、その本質を見極め解決策を提示できるレベルになっているからと胸を張って言いたいと思います。年明け早々のbig mouthで恐縮ですが、これまで多くの国際的な援助機関(それは国連等も含め)は社会課題に対しその問題の所在を突き止め、それに対する解決策を提言してきました。しかし、それで問題が解決しているかというとそうではない。問題に対する解決策まで出てるのに、なぜ問題が解決されていないのか?それは単純に「言うは易し、行うは難し」この一言に尽きます。

どこのコンサルタントも「インドネシアのカカオ産業が振るわない」という課題の背景には、アフリカや中南米のカカオ生産国と違いインドネシアではカカオの収穫後にカカオ豆を発酵をしていないという本質的な問題があることを気付いていました。だからどの国際機関も「カカオの収穫後に豆を発酵をすることが付加価値を創出し、もってインドネシアのカカオの国際地位の向上と農家の所得向上に寄与する」と提言してきたわけです。でも実際はどうだったか?真実は「発酵をしても、しなくても、カカオ農家に支払われる額は変わらない。それはニューヨークとロンドンの市況で決まる。努力して手間暇かけて発酵しても買取価格に反映されないのだから発酵はしない。」現実的な農家は合理的にものごとを考えて発酵をしないのです。

国際機関や開発コンサルは、調査に基づき課題を突き詰め、その解決策を提示した。でも彼らはその実行をしなかった。「実行するのは農家だ、私はやり方を教えた。あとはお前らがやるんだ」まるでそう言っているかのようです。私はこんな連想をしました。

学校の先生がやる気のない生徒を教えている。数学の公式が分からないから丁寧に解説して「こうやればこの問題を解けるんだよ」と丁寧に教える。それでも生徒は問題を解けない。いや、実際は解かないのです。それは解き方が分からないのではなく、その問題集を全て解いて終わらせたところで、この学生は次の春には家庭の事情から進学できないという事情がありました。だから、勉強のやる気がでないのです。この生徒が欲しているのは問題の解決方法ではなく、進学できるように奨学金の制度を教えてくれることなのです。先が見えれば、先生が黙っていてもこの生徒は自ずと勉強するでしょう。生徒は進学できないのを問題視しているのに、先生は目先の数学の問題の解き方ばかりを教える。これを元の文脈に戻せば、農家は収入が上がる方法を教えて欲しいのに、国際機関や開発コンサルは付加価値を付けるやり方ばかりを教えており、それをやっても収入が上がらないという現実に気づいていない、そんなイメージです。

Dari Kはこの辺の事情を痛いほど理解してきたから、きっと政府の案件を受託できたのだと思います。現場で求められているのは何か、そしてそれに対して解決策をレポートにまとめて提出して終わりではなく、そのimplementationつまり施行まで、言い換えれば出口戦略までしっかり面倒を見れることこそDari Kの強みでもあるのです。

しかし、2015年は甘いことばかりではありませんでした。これらの案件をこなす中で、現実の厳しさを思い知らされました。我々は自分でカオスの中に入っていき、そしてそこで深みにはまったのです。下の画像を見てください。

これは通常の熟したカカオの実を割った写真です。白いパルプと呼ばれる実の中に、カカオの種(カカオ豆)が入っています。

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しかし今年はとんでもないことになっていました。雨季になっても一向に雨が降らず、なんと7カ月連続で雨が全く降らなかったのです。これまで30年以上農業をやってきた人も口を揃えて「こんなに雨が降らない年はなかった」と嘆いていた、そんな年でした。

嫌な予感はしていました。

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農家を1軒ずつ回っていました。通常よりもだいぶ小ぶりなカカオの実だとすぐに気づきました。実が小ぶりなので、中のカカオ豆も小さく、数も少ないのはすぐに予想できました。農家もカカオ豆の収穫量は昨年の30%減くらいになるのではないかと半ば諦めて予想していたようで、はじめは笑顔でカカオの実を収穫していました。

そしてカカオの実を開いていきました。

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割っても割っても、出てくるのは黒く腐った豆ばかり・・・。真っ白なパルプは10個に1個あるかないか・・・。はじめは中を開けたら黒くて「運が悪い」なんて照れ笑いをしていた農家の顔が次第にこわばるのが分かりました。彼らの収入源が目の前で消えていくんです。やるせない空気がその場を包みました。私は言葉も出ません。農家も無言のまま割り続けました。50個、100個と割っても中は全て腐っていました。完全に水不足で今年のカカオはやられました・・・。

雨が降らないと収穫に影響が出るのは何もインドネシアのカカオ農家だけではありません。コメ農家も、トウモロコシ農家も、日本の農家だって同じです。しかし、不作の時に作物の価格が上がったり、最悪のケースでは収入の補てんやセーフティーネットがある日本に対し、インドネシアにはそのような制度はないし、カカオの価格も生産国のインドネシアではなくNYとロンドンの投機筋によって決まってしまうのです。

カオスに入り込んだら、底なし沼だった。

でも僕らは諦めません。降水量がどうなるかなんて、不確実もいいところ。昨年は30年に1度の干ばつが来たから、次の干ばつは30年後かというとそんなことは分かりません。もしかすると2年連続で今年も干ばつになるかもしれません。誰もどうすることもできないbeyond controlのカオスな状況だからこそ、僕らが何とかしないといけない、そう強く思いました。

それはもはや美味しいチョコレートを作るとかそういう次元ではく、チョコレートメーカーとしてそれは絶対条件であって、それ以上に今は人の命が、スラウェシの100万のカカオ農家の暮らしがかかったこの状況を「あぁ、今年は雨が少なくて不作で大変だったね」なんていう他人事で終わらせることはできないところにきているんです。

僕らは新たな方策を考えました。まだこのタイミングでは発表できなものの、それがスラウェシのカカオ農家を、いやスラウェシだけでなく、全世界のカカオ農家を救うことになるかもしれないと思っています。

私はDari Kの社員を誇りに思います。自分の待遇のことばかり考えて、会社が自分にどれだけのことをしてくれるか、それが思い通りにならなかったら転職して・・・そんな社員はウチにはいません。何のために働くのか、誰のために働くのか。たった5人でもできることがある。もしこれが100人なら、1000人なら、本気で世界を変えられるかもしれない。

2016年。僕らはスラウェシ島の新天地でカカオの買取をスタートしました。エルニーニョの影響でカカオの生産量は激減している中、国際市況ではなく、僕らが見た現実に即した値段でカカオを買い取る。これまで各農家に任せていた発酵はDari Kの手で集中管理方式を取り始めました。新しい仕組みの導入、新しい取り組みの開始。農家の笑顔が、この新しい門出への最高のプレゼントでした。

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2015年のsystematic chaosから2016年はworld new order(世界の新しい秩序)へ。今年は昨年以上に僕らの本領を発揮する年になるでしょう。