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dari K to the World
ブログ

起業して得るもの・失うもの

ある雑誌のインタビューを受けた。

「今の仕事(Dari K)を始めるにあたって、犠牲にしたものは何か?またDari Kをやって得たものは何か?」
そんな質問があった。

おそらく質問したライターが想定していたのは「キャリアやお金(比較的高いお給料)を犠牲にしたけど、自分で会社をやることで自由な時間や、仕事の一層のやりがいを手に入れた」ということだったのではと思う。

まあ想像に難くない。そりゃそうだ。海外と国内の大学院2つを卒業して、外資系の金融機関でアナリストをしていたところから、急に京都の商店街(観光客でにぎわう錦市場でなくローカルな三条会商店街!)で5坪の小さなチョコレート店(しかもパティシエでもないのにカカオ豆から手作り!)を始めたのだ。華々しいキャリアも高給もぶっ飛んでしまった。

でも、僕は「キャリアやお金を失って、今の自由と充実を手に入れた」とは答えなかった。

なぜなら、実際にそう思ってないからだ。確かに金融アナリストとしての華々しいキャリアは失った。以前だったら、TVに出ている経済アナリストやエコノミストと普通に直接会って話が出来たし、TVや新聞でしか見ることができない大企業の経営者にだって直接会って話を聞いたり、世界の経済情勢(日本の失業率よりアメリカの失業率の方が日本の株価に与える影響はとんでもなく大きい!)を毎日分析していたので、なんかその「経済の最先端にいるんだね私は!」というダイナミズムはなくなってしまった。

だけど、今は、はるばる海を越えたインドネシアの農家と、どうやってカカオの生産性を高めようかと議論することができる。それに文系だから全く無知だったけど、今では肥料のNPK(窒素、リン酸、カリ)も分かるし、バイオマスを使用したメタン発酵のこともある程度分かるし、接ぎ木だって自分でできる!もちろん、カカオ豆の発酵もできるし、豆からチョコも作れるし、その作ったチョコを店舗だけでなく百貨店で売ったり、カタログで販売したり、通販だってやっている。カカオの相場も毎日チェックしているし、為替相場や原油相場なんて1時間に1回はチェックしてる!だからダイナミズムは全然失っていない!

逆に今は自由になったかというと、毎日夜中3時まで働いていた金融時代よりも働いている日も多々あるので(泣)、時間的にはそうでもない。まあ上司がいない分気が楽になっているかのような錯覚に陥るけど、前は上司に守られてたり、最終的な判断は上司がしてくれたから助かってたけど、今は自分の判断の責任は自分なので、その分ストレスレベルは数倍になってるから、自由を謳歌しているとは言いづらい。でも労働時間の長さも高いストレスレベルも、やらされている感は全くなく「面白いからやっちゃう」的なノリなので悪くない。

仕事のやりがいは、前職の金融と今のダリケーはどちらがあるか、ということは比較するのが難しい。どちらもやりがいは十二分にある。何事もそうだと思うし、どんな職業でもそうだと思うけれど、「金のために(自分の時間と頭と体を提供して)働く」というスタンスで仕事をするか、「目標のために働く(そして金はあとからついてくる)」というスタンスで仕事をするかで、やりがいは全然変わると思う。やりがいは仕事の種類や会社によるものではなく、個人のスタンスによって違うとすると、金融時代と今のダリケーはやりがいの種類は違うけど(前者は多額の金を自分の頭で考えた仮説に基づき動かすというやりがい、後者は少ない資金と限られた時間でどう新しいパラダイムをこの世にもたらすかを試すというやりがい)、どちらもやりがいに満ちている。

給料のことで言えば、「金融アナリストをずっとやっていれば今頃・・・」って思うときはなくもない。毎日牛丼チェーンで食べてると、「ああ、なんかまた牛丼か。金融時代に接待で美味いもの食べに連れて行ってもらったのが懐かしい」と思っちゃたりもするときはある。でも、だからと言って後悔は全くなくて、世界各地で活躍している元同期の話を耳にするとむしろ刺激をもらっているし、よくよく思い返してみれば、接待されても気を遣ってゆっくり味わいながら食事できないからお腹空いて、帰りに結局牛丼屋に寄っていたっけ。

ということで要約すると、「今の仕事(Dari K)を始めるにあたって、犠牲にしたものは何か?またDari Kをやって得たものは何か?」という質問に対する私の答えは「犠牲にしたのは金融業界に身を置くからこそできることの可能性で、今のダリケーで得たものはダリケーだからこそできるのことの可能性」だった。何をなくして、何を得たか、ではなく、ともにそこにいるからこそできる可能性をなくしたり、得たりしたということだ。

今ダリケーでは色々なプロジェクトをしている。それはチョコレートだけではなく、カカオ殻を使ったバイオガス&発電事業や、ポリフェノールの機能性食品事業、JICAのBOP案件である焼畑農業からカカオ栽培の移行や、まだここでは公表出来ないプロジェクトがいくつもある。

VC(ベンチャーキャピタル)の投資を受け入れれば、もっと給料をあげることもできるが、給料でもらうより、今は事業に集中し投資すべきだと感じているし、金よりも時間の方が大切なので、今は時間をVCにとられるくらいなら、各案件に集中したい。

ところで5月9日(土)はDari K本店がある三条会商店街で毎年恒例の全国から人が集まる地ビール祭りがあった。正確な数は分からないけど、1万人以上は確実にいた。多くの人がDari Kに来てくれたし、商店街がにぎやかになるのは本当にうれしいものだ(なんと三条会商店会は今年100周年!シャッター閉まってる店もあるけど、新しい店もあって、新旧いろいろで楽しい。特に中華レストランと町屋の喫茶店はおすすめ!)

地ビール祭りの打ち上げという名目で(お客さんみんなビール飲んでいたので、無性に飲みたくなった)、TVカンブリア宮殿で見てからずっと行ってみたかった念願の鳥貴族に社員と行った。周りからみると何気ない居酒屋での打ち上げかもしれないけど、いつも一緒に頑張る社員と仕事のハナシ抜きに笑いあう時間が最高に幸せに感じた。金融アナリストだったら感じられない幸せだったかもしれない。

それにしても鳥貴族は安くて美味しかった。