Dari K(ダリケー)

Dari K to the World
ブログ

カカオを科学する

(前回の続き)
10月から雨季に入ったインドネシア。
夕方毎日のように大きなスコールがある。
すさまじい雨量だが、それが1-2時間で
終わると、またまぶしい太陽が顔を出す。
東南アジアは、だから好きだ。
時間通りにこないのは、電車だけでも
人だけでもない。天気予報なんて誰も見ないし、
当てにしない。雨が降ったら止むまで待つ。
傘なんてさしたところでずぶ濡れになるような
雨だから、待つしかない。
こうして環境がのんびりとした国民性を
形成するのか、のんびりとした国民性が
DNAに刻まれていて、のんびりと構えているのか、
どちらが先か、はたまた相互作用なのかは
分からない。ただひとつ言えるのは、
分かったところで、何も変わらないということだ。
今回はカカオを科学しにやってきた。
たぶん世界でも、研究者でないのに、ここまで
深くカカオの分析をしにやってくる人は
いないんじゃないかってくらい、今回は
色々な仮説を用意して、それを検証しにきた。
そして多くの発見があった。
また、今回の実験ではまだ分からないこと
(というか、もう専門家に分析してもらわないと
分からないこと)も数多くあった。
この場で具体例を出したいところだが、
これはかなりの知的財産なので、公表しないことにしよう。
・・・と思ったのだが、全く言わないとDari Kの
試みやこだわりの深さが分かってもらえないので、
競合他社さんもこのブログを見ているのを
承知で、少しだけ書こう。
たとえば、「コンチング」というプロセスがある。
これは、カカオ豆をペーストにしたものを石のローラーでなどで
練る作業のことを指す。カカオ豆を焙煎して挽いた状態だと
まだ粒子が粗いので、このコンチングにより
粒子を細かくし滑らかにするのだ。
また、コンチングの役割は、粒子のサイズを小さく
するという他に、石をまわし続けてある程度温度が上がり
空気との接触もあるので、その過程でoff-flavor(undesirable flavor)と
呼ばれるチョコ作りには適さない、不要な香りを
飛ばして、カカオの本当の良い香りを残すという
働きをする。これは業界人にとっては知られているところだ。
いや、業界人といってもお菓子職人や普通の
ショコラティエは知らない。だってこれはカカオから
加工する時に通る過程であって、クーベルチュールや
カカオマスを買ってる人(菓子職人の99.99%)は
そんな過程があることさえ知らないだろう。
話を戻して、私はこのコンチングに甚だ疑問を
抱いた。というのは、石のローラーが、チョコにするときに
いい香りだけ残して、良くない香りは飛ばしてしまう
なんて、そんな判断を出来るはずないのではないか、
と思ったのだ。
だとしたらコンチングの過程で、良い香りも飛ばして
しまっているのではないか。あるいは、その逆で、
コンチングの過程で、望ましくない香りを飛ばせて
いないのではないか?
より端的に仮説をつくればこうだ。
最終製品であるチョコレートにとって良い香りの
する粒子なり分子たちをAグループと呼び、
不要な、もしくは望まない香りのグループをBとする。
コンチングによりBだけ失くして、Aのみ残す、ということが
本当であるならば、それはどういう状態に
あるのか。
コンチングの過程で、熱をもち、また水分の蒸発とともに
香りが逃げるのであれば、温度上昇によりカカオマスの
なかのAとBが動き始め、Aはカカオバターの分子にくっつき、
Bは水分など揮発性の分子につく。
そうであるならば、水分の蒸発に伴い、Bだけが飛んでいき、
Aだけが残るはずだ。さあ、果たしてそうなっているのだろうか。
Dari Kにも、インドネシアにも、そんな分子の結合状況を
測定する機械はない。またあったとしても、何百とか、
何千とかある香りの分子のどれがAでどれがBにカテゴライズされるのか
なんていうのは、とうてい素人には分からない。
ただ、私は研究者としてこれを知りたいのではない。
厳密にこれを知ることができれば、今後の製品作りに
役に立つが、今必要なのは、もっとざっくりと、
どのコンチングマシンで、どの速さで、何をどれだけ何時間やるのが
ベストなのか、これさえ分かれば良い。
でも、これが分かっていないのだ。
海外の文献を読んでも、意見はバラバラ。
「クリオロ種のカカオは、フルーティーな香りが特徴だから
コンチングを長時間やるとその香りまで飛んでしまう。
だからフォラステロ種のカカオをコンチングするときより
短時間でやるべきだ」と主張するものもあれば、
「クリオロのフルーティーで複雑なアロマを表現するには
じっくり長時間コンチングして、その香り成分を
引き出さなければならない。よってフォラステロの
ときよりも長時間コンチングすべきだ」というのも
あるのだ。
どっちも、もっともらしい。でも「らしい」ではダメだ。
Dari Kは世界のチョコレートをリードする
プロになる。世界でも数人しかいないカカオ豆から
加工する職人。彼らは先駆者ではあるが、どこまで
科学できているか、それには彼らのチョコレートを
食べる限り、疑問符を打たざるを得ない。
解明すべきパラメータは多い。コンチングの前工程である焙煎や
後工程であるリファイニングなども考慮しなければならない。
f(美味しいチョコ)=f(焙煎温度、焙煎時間、コンチングの機械の
種類(ダミー変数)、速さ、時間、他のインプット(砂糖や
粉乳など、これもダミー変数)、リファイニングの有無(ダミー))
など、最適な組み合わせを見つけようと思ったら、何年もかかるだろう。
でも、これは良いことだと思う。
少なくとも、Dari Kはこれに取り組むことで、毎年毎年
着実により美味しいチョコを作れるようになるだろう。
この式が既に完全に科学で解明されていて、もう改良の
余地がないというのでは、それこそつまらない。
そして思う。
クーベルチュールを使って、小手先の技術で美味しく
見せようとしてもやっぱり限界がある。クーベルチュールは
クーベルチュールであって、それ以上でもそれ以下でもない。
やっぱり、原点はカカオのはずだ。
そして、そのカカオのことを一番知ってるのは
本来ならばカカオ農家でなければならない。
でも彼らは、何も知らない。
知らないから、買い手市場になってしまう。
知っているなら、売り手市場だろうに。
知らなければ、教えればよい。
教えるには、自分がまず学ばなければならない。
だから今回、インドネシアに来たのだ。
再び・・・
(終わり)