先日スーパーでお菓子コーナーの前を通りがかったご家族の「チョコレート高い!気軽に買えないね…」という会話を偶然耳にしました。皆様も同じように感じている方が多くいらっしゃると思います。かくいうdari Kも価格の改定を行う中で、商品開発担当として「この危機にどう立ち向かうべきか」日々悩んでいます。「カカオ豆高騰」をテーマとした連載の第2回、今回は商品開発を担う私、襖田(ふすまだ)が、現場からお届けします。
連載第1回足立のブログに、まさにdari Kが抱える危機感を集約した一文がありました。
今、価格が高騰しているからといって「品質に関わらずどのカカオも高い」が当たり前になってしまうと、“良いものがきちんと評価される文化”が育っていく前に終わってしまうのではという不安もあるのです。
この危機感こそ、私たちが動く原動力です。私たちは、カカオ生産現場で「良い物は適正に評価される世界」を実現したいという想いで活動しています。だからこそ、「どんなチョコも高い」「味が一緒ならカカオじゃなくても良い」という風潮は、私たちが目指す世界から遠ざかってしまうと強く感じているのです。
そのような危機感から、「良いカカオがきちんと評価される」世界を実現するために。dari Kが特に力を入れている商品カテゴリをご紹介します。どちらも価格高騰だから始めたものではありませんが、カカオが高騰している今だからからこそお客様に伝えられる商品として新作を作ったりプロモーションを強化したりしているものです。
特別発酵のカカオによる「価格に見合った付加価値」創出
一つ目は、「特別発酵のカカオ」を使った商品です。
チョコレートの味は、現地で行う発酵という工程が決め手になると言われています。通常の発酵ではカカオだけを自然に発酵させます。dari Kの「特別発酵」という技術は、カカオを発酵する際に果物やスパイスを一緒に発酵させることで、香料やフレーバーを後から添加することなく、自然な香りを豆そのものに取り込むものです。そのカカオを加工することで「内側から香る」独特の世界観を持つチョコレートが生まれます。 これは、カカオの生産・発酵段階から深く関わる私たちだからこそ可能になった、まさにdari Kの真骨頂ともいえる試みです。

「同じチョコレートがどんどん高くなる」という印象を持たれがちな今、私たちはこの特別発酵を、カカオのアップデートであり、価格に見合った付加価値として広げていきたいと考えています。
このカカオの面白さを知っていただくため、毎年トリュフのフレーバーとして新作を登場させ、業務用としても徐々に使用が広がっています。

特別発酵はなにがいいの?というお客様からの質問をいただくこともあります。簡単に言えば「カカオそのものの香りが発酵によって変化し、後から風味を足さずにチョコレートが自然に香る」ということ。
「同じチョコがただ高くなる」印象の今だからこそ、“価格に見合う付加価値”として、この特別発酵を広めていきたいと考えています。
特別発酵カカオを使ったトリュフや業務用チョコレートも好評で、パティシエの方々からは「自然にカカオと果実が融合していて奥深い」といった声をいただいています。しかし、「〇〇味のチョコレート」が溢れる中で、この“発酵による付加価値”はまだ伝わりにくいかもしれません。
ここで、カカオとよく比較されるコーヒーの世界はどうでしょうか?
例えばコーヒーの世界では、発酵の違いが「味の個性」や「価値」として受け入れられています。豆の処理法ひとつで味わいが変わり、それが希少性やストーリーとして評価される文化があります。カカオも本来、コーヒーと同じように発酵の違いで豊かな個性を持つ素材です。私たちの特別発酵カカオは、まさにその多様性を引き出す試み。素材の風味を“後から足す”のではなく、発酵によって“内側から生まれる香り”を楽しんでいただく。その点で、コーヒーの文化と通じるものがあると感じています。
(余談ですが、dari Kのカカオ産地・インドネシアつながりでよく話題に上るのが「コピ・ルアク」。動物の体内で発酵した豆が特別な風味を生み、1杯数千円で評価されるようなコーヒーです。このように発酵の違いを価値として楽しむ文化が、カカオにも根付いてほしいと願っています。)

コーヒーと同じように、カカオ豆をただ挽いて普通に砂糖や乳を加えただけで奥深い味がする、発酵方法の違いで味わいが異なるという不思議がもっと楽しんでいただけるように今後様々な商品を発売していきたいと思っています。また、ただそう感じるだけではなく、実際に香りの成分が通常の発酵と特別発酵を経たチョコレートで異なるということも分かってきており、より皆様が直観的にわかる面白さも発信していきたいと思っています。近々新たな商品も準備しておりますので、お楽しみにしていてください!
“カカオの違いを楽しむ”を文化に
もう1つは、dari K丸の内オアゾ店で提供している「マイカカオラテ」です。これは、「カカオグラインダー」という自社開発のマシンから挽いたピュアなカカオを使用することで、カカオの濃度、甘さ、合わせるミルクの種類を選んでいただけるという画期的な商品です。
オーダーメイド感覚の楽しさはもちろんですが、それ以上にこの商品がユニークなのは、“カカオの個性”がダイレクトに感じられることです。
一般的なチョコドリンクは、コンチング(精錬)などの工程を経て味が調整されたチョコレートを溶かして作ります。チョコレートを機械で長時間練り上げる工程により、粗い粒子が均一になり、まろやかな味わいになるため一般的にはそのようなチョコレートが普及していますが、一方で、揮発性の香りなど、その時その時のカカオの風味は分かりづらくなります。
それに対し、マイカカオラテは、店頭のカカオグラインダーで豆を挽き、豆の個性をそのままに仕上げるという全く異なるアプローチ。「これがカカオ」と思えるフルーティーな味わいと、その時々のカカオで違った個性も感じられます。店頭や展示会で体験会を行うと、「カカオの味ってこういうのなんですね!」と興奮したお声をいただきます。

レベルの高い代替チョコレート商品も人気が出てきている中、挽きたてカカオで違いを楽しむのは“カカオだからこそできる”体験。「カカオじゃなくていいや」という風潮になりかねない現在ですが、農家が懸命に育てたカカオならではの味わいを楽しんでいただき、その文化を守りたいと思っています。
実はこの挽きたてカカオは、私が入社した2018年に京都駅の店舗で初披露されました。入社後すぐにこの店舗を担当し、「挽きたてカカオのお湯割り(カカオドリンク)」などチャレンジングな商品も出していました…(笑)

▲ 幻のカカオドリンク
一方でその頃から変わらないのは「挽きたてカカオを文化にしたい」という想い。当時は小さなエスプレッソ容器で楽しむ「カカオプレッソ」なんと300円で提供もしていました。当時印象的だったのは、観光客のイタリア人のお客様が、カカオプレッソを頼むとお渡し口でグイっと飲み、目を見開いて「こういうの、探してたんだ!」と言うと近くでお土産を見ていた友人数人を呼んで皆で肩を並べてグイ飲みし絶賛していただきました。まるでイタリアの街角の一風景のようで、本当に文化になっていくのではと可能性を感じました。

今は東京・丸の内に場所を変えましたが、カカオ高騰の現在でも、「マイカカオラテ」693円から(イートイン・カカオプレッソとは異なり通常のカップサイズです)お飲みいただけ、本格チョコレートドリンクとしては比較的お求めやすい価格で楽しんでいただけます。なるべく多くの方に肩ひじ張らずにカカオの面白さ、個性を知っていただき、このような時代だからこそ「カカオならでは」を広めていくという信念でご提供しています。ドリンクだけでなく、挽きたてカカオを使ったかき氷やジェラートなどその可能性を広める様々な商品を開発・提供していきます!

カカオから、世界を変える―原点を大切に
相場は今後も上下するでしょうし、世界の情勢も日々変わっていきます。しかし、私たちがやるべきことは変わりません。 カカオ本来の味や魅力を伝え、それを正当に評価する社会をつくること 「カカオじゃなくても良い」という風潮を跳ね返し、農家が懸命に育てたカカオならではの味わいを楽しめる文化を守り、広めていくこと。その原点を見つめながら、これからもdari Kは、商品を通じて皆様に感動を届け続けてまいります。
次回は、生産企画部から、チョコレートの最前線、カカオ産地の課題と取り組みをお伝えします。長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
シリーズカカオの価格高騰
【第1回】カカオ価格高騰の今、現地インドネシアから見えること 足立こころ
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