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【吉野に聞く】Dari Kはなぜフルーツ発酵に挑戦するのか(第3回)

2021年1月から販売開始した、人気商品の「カカオが香る生チョコレート~フルーツ発酵~」。副原料や香料を一切入れていないのにフルーツがふわっと香る「フルーツ発酵」の技術は、Dari Kが独自で開発しました。今回はその裏側にあるストーリーを深掘りしていきます。

 

*フルーツ発酵とは?

カカオ豆の発酵の過程で現地で採れる南国の果物を使用して作った特別な酵母を混ぜることで、フルーツの風味や香りをカカオ豆そのものにまとわせた特別なカカオ豆のことです。

 

◆そもそも発酵って?

 

―そもそもカカオを発酵させるということ自体、あまりイメージがつかないのですが、カカオの発酵について教えてください。

 

カカオ豆というのは、カカオポッドと呼ばれるカカオの果実の種子のことを指します。カカオポッドは、ラグビーボールより一回りくらい小さい楕円形の実で、これがカカオの木の枝や幹に直接ついています。

 

 

このカカオポッドを収穫して殻を割り、中からパルプと呼ばれる白い果肉を取り出します。

 

 

このパルプを木箱に入れ、バナナの葉っぱで蓋をして放置すると、パルプの糖分と目には見えない酵母が反応して温度がぐんぐん上がっていきます。これがカカオの「発酵」です。

 

 

発酵によって、カカオのパルプの甘酸っぱい香りや味がカカオ豆の中に染み込みます。発酵しなくてもカカオ豆からチョコレートを作ることはできますが、発酵したカカオ豆からできたチョコレートに比べて味が単調で、あまり美味しくなりません。美味しいチョコレートを作るには、良い原料を使う必要がありますが、そのためには発酵という過程は不可欠です。

 

―発酵することで風味の良いカカオ豆になるのですね!

 

はい。カカオ豆は産地によって色々な風味の違いがありますが、その風味を決めるのも「発酵」なのです。

 

◆フルーツ発酵の開発秘話

 

※写真はイメージです

 

―カカオを発酵させる際にフルーツも加えたのですね。どんなところが大変でしたか?

 

そもそも、カカオ豆の発酵で作用する酵母は木箱やバナナの葉っぱ、空気、土などどこにでもいて、何の酵母が作用してこの風味になっているのか、科学的によく分かっていない部分も多くあります。そこにフルーツも加えて発酵させようとするわけですから、一度上手くいったとしても、一緒に入れたフルーツの酵母が作用してこの風味になったのか、それとも木箱にたまたまいた酵母が作用したのか分からず、もう一度同じ原料で同じ条件で実験しても、違う風味になってしまうことがあり、条件を揃えるのに苦労しました。

 

ーフルーツ発酵を開発するのに、どれくらいかかりましたか?

 

5年かかりました。

 

―5年も!なぜそんなに時間がかかったのですか?

 

同じような風味を作り続ける(再現性を持たせる)のに一番苦労しました。

 

―同じ条件で実験しても、風味が全然変わってしまうこともあるのですね。どうやって同じ風味を出し続けられるようにしたのですか?

 

木箱ではなくステンレスの発酵槽を使い、実験が終わるたびに消毒して使うようにしました。ステンレスであれば酵母もくっついていないですし、比較的同じ条件を作り出しやすくなります。ステンレスの発酵槽は売っていなかったので、自分たちでステンレス板を買って手作りしました。

 

◆フルーツ発酵の可能性と今後の挑戦

 

 

―フルーツ発酵って、カカオ豆をチョコレートにする段階でフルーツのフレーバー(香料)を足すのと何が一番違うのですか?

 

一番は、いつ誰がフルーツの風味を加えるという付加価値を加えるかが違います。カカオ農家はこれまで、カカオを収穫・発酵・乾燥させ、輸出するだけで、フレーバーを足すことを含めたチョコレートへの加工は生産国ではない国(先進国など)で行われることがほとんどでした。カカオは国際市場で買取価格が決められてしまうため、原価割れを引き起こす可能性のある作物です。カカオ農家が自分たちで価格を決めることができず、カカオ農家が儲かりにくい構造にあります。フルーツ発酵は、そんな生産者たちが自分たちでフルーツの風味という付加価値を加えられることで、国際市場で取引されるカカオ豆と差別化を図れますし、付加価値を加えることによってカカオの買取価格も上がります。フルーツ発酵はカカオ農家にとって、カカオが儲かりにくいという状況から脱却し得る一つの希望になるのではないかと思っています。

 

また、消費者にとってもフルーツ発酵はさらにカカオやチョコレートを楽しめることに繋がると思います。Dari Kはインドネシア・スラウェシ島にしか契約農家がいないため、他のBean to Barのように産地の違いでチョコレートの風味の違いを楽しんでいただくことができません。その分、同じスラウェシ島のカカオ豆でもフルーツ発酵の有無によって風味の違いが味わえ、楽しみ方が広がるのではないかと思います。

 

―なるほど。フルーツ発酵に使うフルーツってどこから仕入れているのですか?

 

スラウェシ島の農家がアグロフォレストリー農法で育てているフルーツを使うなど、スラウェシ島で採れたフルーツを使っています。カカオは直射日光に弱く、カカオの木よりも背の高い、日陰を作ってくれるシェードツリーが必要になってきます。また、カカオの木が病気にかかり、カカオを収穫できなくなったとしてもフルーツの木を混植しておけば農家は食いつなぐことができます。アグロフォレストリー農法で色々な作物を植えておけば現地の生態系を守ることにもつながり、環境面から見ても良い農法なんです。

 

 

こうしたメリットがある一方、スラウェシ島の島民は皆カカオやフルーツを栽培していて、収穫したフルーツを市場に持って行っても売れません。漁師に魚を買ってくれと言っているようなものですからね。いくら環境やカカオの生育のために良いからといって、売れないフルーツを作り続けるのは無理があります。そこで、アグロフォレストリー農法で育ったフルーツをカカオの発酵に混ぜ込むことで、フルーツを栽培する意義が生まれます。農家の経営を持続可能にするためにも、フルーツ発酵には可能性があるのではないかと思います。

 

―最後に、フルーツ発酵を通して今後どんなことに挑戦していきたいですか?

 

スラウェシ島にかぎらず、もっと色々な場所でフルーツ発酵の技術を広めたいです。カカオだけを発酵させても産地によって風味が全然違うのに、中米やアフリカなど、現地で採れるフルーツを現地のカカオと掛けあわせたらもっとカカオに個性が生まれると思いますし、カカオの楽しみ方がぐっと広がると思います。世界のカカオの可能性を広げていきたいですね。