春爛漫・今だけのトリュフ
春爛漫・今だけのトリュフ

dari K to the World
ブログ

自然災害リスクと社会政策

今日はちょっと真面目モードで書きます。
突然ですが、今回の東北大地震と原発関連の
ニュースを毎日のように見聞きしていると、
直接・間接問わず被害にあった農家の方への
補償はどうなって、それを受けて彼らは今後
どうするのか、ということが個人的にとっても
気になります。
政府や地方自治体の補償があるとはいえ、
またいつくるか分からない自然災害の怖さを
感じた直後に、今後の仕事としてどういう
選択をするのでしょうか。また農業を続けるのか、
これを機にやめて別の仕事をするのでしょうか。
カカオ栽培農家の方々とお付き合いがあるから
一層、他人事とは思えないのです。
今回のような地震はもちろん、天候不順や
台風でさえ、農作物には多大な影響を
与えます。1年かけて大事に育ててきた農作物が
台風によって、地震によって収穫できない
状況になってしまったら。。。
実際に農業を営んでいない私には理解できない部分も
多いでしょうが、例えば学生ならば、何ヶ月も
ほぼ毎日徹夜して完成間近の論文を
保存してあったファイルもバックアップ用の
ファイルも急にPCが動かなくなって使えなく
なってしまったと想像してみてください。
サラリーマンなら、何ヶ月もかけて準備してきた
案件が、最後の最後で急にダメになったり。
周りの人からみたら、「運が悪かった、
しょうがない、また頑張るしかない」というような
ことも、当の本人にはそれでは済まされない気持ちで
いっぱいだと思います。
私はイギリスに留学しているときに各国の社会政策を
勉強していました。社会政策とは、貧困から
ワークライフバランスから、年金から、人口問題から
民族的マイノリティまで社会の問題に対して、
どう政府はアプローチをしているのかということです。
それをまがりなりにも(というかかなりみっちり)
学んだ自分としては、災害がもたらす影響とそれへの
対応策というのも、これから社会政策の文脈の中で
きちんと議論していく必要があると思います。
カカオは天候の影響を受けるのはもちろんですが、
カカオにとっての大きなリスクは害虫(CPB
:Cacao Pod Borerと呼ばれます)です。
この害虫が大発生すると、カカオの木も実も全て
やられてしまい、当然収穫できなくなってしまいます。
これを避けるために、化学薬品を撒く農家も多いのが
現状で、初めてスラウェシ島の農家を訪れた時に私は
「無農薬で栽培したら付加価値がつくのに」
と常々思っていましたが、もし無農薬で栽培して
害虫によりカカオの木がやられてしまったら
その年だけでなく、木を植え替えてその新しい木に
実がなるまで数年間、カカオ農家の所得は
なくなりかねません。
そんな時に、欧米や日本など、チョコレートの消費国は
インドネシアはCPBの発生でカカオが取れなくなって
しまったからアフリカや中南米のカカオを使おう、
と調達先を容易に変えることができますが
インドネシアの農家にとってはそれこそ死活問題です。
政府が補償してくれるでしょうか?
誰かが面倒を見てくれるでしょうか?
稲作をやめてカカオを栽培することにした農家は
所得がない上、自分達が食べていく米もありません。
そう考えると、彼らに「無農薬でカカオを作るべきだ」
とは言えなかったことを思い出しました。
そして、無農薬の方が良いと分かっていても、
「隣の農家が農薬を使ってうちが農薬を使わなかったら
害虫は必ずうちのカカオにやってくる」と言っていた
農家の方の言葉も思い出しました。
天候リスクや自然災害リスクは生産者がとるべきだ、
とればいい、という態度を最終消費者が取る限り、
生産者は余計に追い詰められていきます。
ある生産地が災害の影響で生産量が激減した場合、
消費者は、需要に対して供給が少なくなっているから
その分価格が上がり、価格上昇という形で自分達も
災害リスクをシェアしてる、と主張するかもしれません。
しかしカカオの例だと、世界第3位のカカオ産出国である
インドネシアでCPBが流行ってカカオの産出量が
激減したら、確かにカカオの国際相場は
高騰するでしょう。でもその高騰で潤うのは、
インドネシアではないカカオ産出国の人であり、
ガーナやコートジボワールが通常の2割~3割増しで
潤っても、その価格高騰分がインドネシアに
循環するわけではないのです。
そうすると、自然災害リスクを織り込んだ
価格設定が本来必要になるべきところですが、
第一次産業に従事する方々の価格交渉力は
低いことが通例で、多くの場合は買い手市場
つまり需要者が価格決定権を握っています。
こういったマーケットの現状に対して
政策という形で国がセーフティネットを
提供することができれば、それはとてもいいこと
ですが、その仕組みづくりは当然一筋縄では
いかないでしょう。
日本は多くの自然災害に見舞われています。
これらの困難に対して、どうやって政府は
補償なりセーフティネットを提供する枠組みを
作るのか、あるいは作ったのか、そういう
経験こそが、他の国の災害時の農家補償の
ロールモデルとはいかないまでも、政策上の教訓、
つまりはpolicy learningになるのでは、と
ふと思ったのでした。
JICAなど日本の援助機関は、技術支援や現地の人々の
エンパワーメントなどで確かな実績と評価を
あげていると思います。その反面、政策面での支援、
とくに社会政策の分野のセーフティネット作りは、
世界銀行(WB)やアジア開発銀行(ADB)任せが
多いというのが私の印象です。
今後の日本の国際協力の一つの重点分野として、
社会政策の分野に力をいれていって欲しいと
個人的には思います。そしてそのためにはまず、
自国がしっかりとした政策を打ち出していなければ
ならないわけで、日本は今こそ踏ん張り時に
違いありません。今自分にできることを
しっかりやっていこう、そう思いました。