春爛漫・今だけのトリュフ
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dari K to the World
ブログ

円高の結末

前回のエントリー未曾有の円高では
ネット上だけでなく、お店に来られたお客様からも
ご感想・ご反響頂きました。
チョコレートとはちょっと離れてしまうので
読者の方は興味持って読んで下さるか心配だったのですが
まあそもそもこのブログ自体はチョコレートに
特化したものでも、Dari Kの宣伝のためのものでも
なく、私個人の想いを綴っていくものですが
さすがに読者が面白いと思わないものをわざわざ
公開するのもな~と思っていたので、この反響には
本当に嬉しかったです!
それで、前回の円高についてのエントリーを
今回はさらにもう一歩踏み込んで、そのインプリケーション
(円高の結末・暗示)について書いてみようと思います。
日本の市場は縮小、よくて横ばいという傾向は
人口が減少し、過去何年も続くデフレの状況をみれば明らかです。
これが意味することは、企業は国内向けだけに頑張っても
仕方がないということ。
日本の市場というパイが(別にケーキでも、何でもいいんですが笑)
小さくなっているのに、頑張っても効率が悪いんですよね。
たとえば、5号(直径15cm)のケーキをこれまで5人で分け合って
いたとします。
ケーキ自体が4号(12cm)になってしまったら、ひとりの
分け前は当然小さくなりますよね。
5号の時と同じくらいの取り分が欲しかったら、食べるのは4人に
ならなきゃいけない。つまり、1人は要らないんです。
このケーキを日本の市場に(これは国内の市場なので
「内需」と呼ばれます)、食べる人を企業に見立てると、
内需が伸びないというか減少している世の中では、
今までと同じ取り分(売上なり利益なり)を確保しようとすると
要らない企業が出てくる。そしてその企業は倒産してしまいます。
でも、外に目をやると、これまで4号のケーキだった中国や
インド、東南アジアなどは、毎年サイズが大きくなり
5号、6号となっているわけです。
そこで、日本の企業は内需だけでなく、輸出をすることで
他国のケーキを少しでも狙いにいく。それが合理的で、
逆に言えば、それが出来ないような会社は
減益(利益が減ること)を余儀なくされ、最終的には
日本のケーキの縮小とともに倒産していくのです。
だから日本の株式市場(つまり、上場企業と呼ばれる
規模の大きな企業の集まり)を見ると、多くの企業が
海外でも販売しています。つまり、日本の経済は
海外で頑張っている企業に牽引されているのです。
そしてこの超円高。
影響を具体的にイメージしてもらうために、海外で
活躍している会社Aがあるとします。
Aは日本国内での売上が50億円、海外で50億円、合計100億円
の売上があります。10年前までは国内だけで100億円の売上で
海外では販売していなかったのに、内需の縮小とともに
海外に販路を見出さざるを得なかったのです。
この会社の海外の売上50億円は、円建てで稼いだのではなく
ドルで販売して稼いだものです。つまり、5000万ドルを稼いだ
のですが、この年の為替レートが1ドル=100円だったので、
5000万ドル×100円=50億円となったということです。
さて、未曾有の円高がやってきました。
1ドル100円から80円になりました。手元にある5000万ドルは
5000万ドル×80円=40億円になりました。
円高になっただけで、50億円から40億円へ10億円減ってしまいました。
これだけではありません。この会社は1個10,000円の品物を
売って稼いでいたのですが、1ドル100円の時は
この品物は100ドルで売られていました。しかし今は1ドル80円なので
10000÷80で、125ドルで売られています。
すると、海外の人にとっては、「おいおい、昨年は100ドルで
買えたのに今は125ドルって高いよ!だったら中国製の
95ドルの方がいいや!」ということになってしまうのです。
そして売上が減ります。
円高で売上が減って、その上外貨で稼いだ利益がさらに目減りする。
100億円の利益のこの企業Aは円高のせいで、利益は80億なり
70億なり、下手したらもっと悪くなるかもしれません。
でも円高は止められない。どうすればいいか。
賢明な企業ならこう考えます。
「そうだ、日本を出よう!」
海外の販売先に工場を作って、現地生産・現地販売にすればいいのです。
円高だからこそ、海外で工場を作ると1億ドル、つまり
100億円必要だったのが、円高の今なら80億円で作れるのです!
何もしていないのに20億円もお得!
しかも従業員は現地の人々。給料も現地の通貨なので
円高はここでもお得に。10%の円高=10%のコスト安なのですから!
そして、日本の本社へ送金していたから、為替が円高の時に
ドルを円に換算する時に生じる損(為替差損)がでていましたが
工場を現地に作って、現地でオペレーションをしているの
だから、もう円に変えずにドルのままもっておけばいい。
こうして、今企業は海外進出を加速しています。
(加速しないと、やばいんです)
企業は賢明ですね。さあ、これで為替の影響が少なくて
済む、そう思ったら大間違い。
確かに企業の収益は改善するでしょう。
しかし、です。
日本にある工場を閉鎖して海外へ工場を移す場合、
日本の工場で勤務していた従業員は職を失うのです。
そして周りの会社も海外へシフトするので、
日本の失業率は悪化します。
さあ、失業率が悪化したら何が起きるか?
失業手当を出さなければいけません。
ただでさえ高齢化で医療費や年金などの社会保障費が
増えているところに、失業手当を出す財源なんて
ないんです、政府には。
しかも、企業が海外に工場を移したりすることで、
海外の収益はその国(進出先)で課税され、日本では
課税されない(二重課税を避ける)のが通常なので、
日本に落とされる税金(企業の法人税)は少なくなります。
失業手当増加で支出は増えるのに、税収は減る一方。
そして失業者は厚生年金に入らない、基礎年金だけに。
すると、源泉徴収じゃないので、年金の未納がまた増え、
将来厚生年金で上乗せされるはずだったものがなくなり、
生活保護対象になるリスクが増えたり。
もちろん、失業した人は消費意欲が減るので、内需は
さらに減退。もう、最悪のシナリオです。
「円高だ、だから海外旅行に!」これがいかに表面だけの
文句かというのは前回のエントリーでお分かりだと思いますが、
「円高だ、だから今こそ海外進出のチャンス」というのも
その果てにあるのは国内の失業者増加と社会保障費の
増加、そして税収の減少と財政赤字の悪化だということを
忘れてはなりません。
そしてこんな今、私が想うこと。
それは老荘思想の「足るを知る」ということです。
今あること、今持っていることに満足する、という意味です。
これはちょっと誤解されると厳しい表現でもあります。
現状に満足していたら進歩がありません。
たとえば、利益が毎年減っているのに、「まあ、いいじゃないか」
という企業の社長にはだれもついていかないし、きっとその
会社自体もいずれ潰れるでしょう。
「円高だけど、仕方ない」と開き直って何もやらないこと、
これはあまり賢明だとは思えません。
(ところでこの「知るを足る」は実は「漁師とMBA」の
教訓だと思うのです)
そういう意味ではなく、円高なのに仕事があるということに
感謝して、円高なのにまだ日本の財政が破綻していないことを
幸いだと思い、それを噛み締めながら、今の仕事を
一層頑張ること、自分の頭と腕を磨き、よりよいモノづくりや
サービスを提供すること、それが唯一円高時代でも
色褪せない働き方だと思うのです。
円高で海外での販売価格が上がっても、日本のこの製品なら
圧倒的に信頼できるから、と円高で実質的な値上げ分まで
正当化され、安心感を与えるような付加価値をつけて
製品を作ること。そして将来必ず来る(と私は強く思ってます)
円安の時に、その勢いを爆発させればいいのではないでしょうか。
ちなみに、京都の龍安寺に「吾唯知足」(われ、ただ足るを知る)
という蹲踞(つくばい:茶室に入る前に手や口を清めるための手水
を張っておく石のこと)があるようですね。
いつか行って見てみたいです!